新入社員用の社内研修の費用を請求する訴訟を提起に対して労基法違反で株式会社システムアートを告訴しました。

[コラム] 2016/01/31

担当 増田崇

私が三浦直子、上田貴子弁護士と一緒にやっている事件で告訴を行いました。事案は、大学卒業後新卒で株式会社システムアート(代表者代表取締役 砂川昇健、東京都新宿区西新宿1-25-1 新宿センタービル 50 階)入社した男性が、会社から、プログラマーとして業務を行う上で必須の基礎知識についての研修(Javaの入門研修)を受けるよう命令され、研修終了後3年未満で退職した場合研修費用を全額返還する旨の契約書(以下、「本件契約書」という。)にサインさせられ、その後男性は、入社1年半ほどで退職したところ、実際に会社から90万円もの貸金返還請求訴訟を提起されたというものです。

研修は基本的に会社の業務上の必要性に基づき行うものであるから、基本的には会社の負担で行うべきものです。また、研修費用の請求を無制限に認めると労働者の退職の自由を制限することになり、戦前の使用者による労働者の奴隷的支配が復活しかねません。そのため、会社と労働者が研修費用を返還するとの契約を結んでも原則として労基法16条(損害賠償の定め)や、労基法14条(3年を超える労働契約の禁止)に違反し無効とされています。

研修費用を労働者個人に一定の負担を負わせることが例外的に許容される場合もありますが、それは欧米の大学でのMBA取得など①業務に直接役立つためというよりは個人の自己研鑽や従業員に対する福利厚生という側面が強い場合で、且つ、②研修を受けるか否かや履修内容について労働者個人の自由意志が実質的に保障されているときに限定されるのが多くの裁判例です。本件はプログラマーとして稼働するための必須の基礎知識を習得するものであり研修内容は業務そのものですし、履修しないと業務ができないので勤務を続けるためには履修するしかなく、履修するか否かの自由も実質的にはなく、労基法違反が明らかな事案でした。

近年オワハラや退職申し出などに対して損害賠償請求をすると脅迫するなど不当な手段による労働者を拘束する使用者が多数発生しており、労働弁護団やブラック企業弁護団等には多数相談が寄せられています。

退職する際に研修費用の返還を求められたり、それを理由に退職を迷っている方は、1人で悩まずにホットラインにご相談ください。