労働審判を諦めない

[コラム] 2016/07/31

  1. 労働審判の運用が開始して、今年で10年が経ちました。

    労働審判とは、個々の労働者と事業主との間の労働紛争について、裁判官である労働審判官と専門的な知識経験を有する民間出身の労働審判員が構成する労働審判委員会が、原則3回以内の期日で審理することにより、紛争の簡易迅速な解決を図る非訟事件手続です。

    司法統計によると、平成27年の労働審判事件の新受件数は3679件で、同年の労働訴訟事件の親受件数3389件を超えており、調停成立率も約70%と極めて高くなっています。

    他方、労働審判は、スピード重視による解決水準の低さということが常に問題になります。実際、裁判所自体が、証拠を精査せず、訴訟を下回る調停案を示してくることがあります。 裁判所では、労働審判が訴訟のように複雑にならないように、労働審判員に対しては、基本的には証拠は交付しないという運用がされていることが多いのも現状です。

    しかし、あくまで労働審判は「当事者間の権利関係」(労働審判法1条)を踏まえた手続である以上、労働審判委員会には、「証拠」に基づき事案を把握し、「当事者間の権利関係」についての判断を明らかにした上で、訴訟における判決の水準をベースとした適切な解決を図っていくことが求められているはずです。

    弁護士としては、あらかじめ、労働審判員の人数分の証拠の写しを提出し、労働審判員への送付を求めていくことなどを通じて、労働審判員を含む労働審判委員会に対し、「証拠」に基づき、訴訟になった場合にはどのような判決がでるかを見据えた解決を図るよう求めていくことが必要となります。

    日本労働弁護団東京支部の会員弁護士は、労働審判においても、証拠を精査した上で、訴訟における見通しを示しながら、適切な解決水準を追求していきます。

    利用しやすい手続だからこそ、決して労働審判を諦めたくはありません。

     

    弁護士 田中健太郎